あの夏の恋



「・・・ここは、木もあるし、風も涼しいから大丈夫だよ。君は暑くないの?制服だけど」

「暑いよ。でも、学校だから仕方無いや」


少女は、曖昧に笑った。
困ったような、哀しいような、そんな顔。


そろそろ少女がここから離れるのかな、と思ったとき、少女はそのまま続けた。


「私ね、ここが好きなの」

「ここ?」

「そう。山の中。いつもは学校への近道に使ってるんだけど、今日は涼もうと思ってきたんだ。ここ、風が気持ち良いでしょ?」



ふわりと冷たい風が頬を撫でる。
素直に、頷いた。


彼女は柔らかく笑う。



「・・・・でも、こんな所で人に会うのは初めてだよ。お兄さん、どうして山に来たの?」

「勧められたんだ。少しは体力を作って来いって。」

「体力、ね」


少女はおかしそうに笑う。
歳はそんなに変わらないと思うのに、少女の方がずっと大人びて見えた。


少しずつ、心臓が高鳴った。

高校もまともに通ってない俺が、人と上手く話せるだろうか。
そんな不安で精神が圧されそうだった。




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