蜜色トライアングル ~String of origin
5.それぞれの2年間
次の年の春。
木葉は桜吹雪の中を歩きながら、空を見上げた。
あれから、由弦はアメリカから一度も戻ってきていない。
『一日でも早く社会人になりたいから、社会人になるまでは日本に戻らない』
由弦も決めたことは曲げない性格だ。
木葉はくすりと笑った。
由弦からはほぼ毎日、メールが届く。
他愛無い日常の話から、昔の思い出話や、これからの日程とか……。
そして週末になると木葉の携帯に電話がかかってくる。
一緒に住んでいた時より、今の方がよほど恋人らしい感じがする。
「由弦……」
春の陽光の中で輝く、由弦の髪。由弦の瞳。
脳裏に蘇るのは、昔から二人で積み重ねた優しい記憶だ。
あんなことがあったけれど、お互いを大事にする気持ちは今も変わらない。
木葉は手にしていたバッグを持ち直した。
バッグの中には英会話教室の教科書が入っている。
――――あと一年。
できる準備はしておかなければならない。
木葉は桜が舞う空を眺め、心の中で呼びかけた。
「……早く会いたいよ、由弦……」