蜜色トライアングル ~String of origin
「実は会社帰りなんだ。午前で早退した」
「えっ、そうだったの?」
「オレの会社、もうすぐ見えてくると思うけど……ほら、あれだ」
会社という言葉が由弦の口から出ること自体に驚きを感じる。
木葉は由弦に示された方角に目をやった。
ものすごく大きいビルがしだいに近づいてくる。
その前に出ている看板は、木葉も知っている大手電機企業のものだった。
「あれ、って……由弦……」
「木葉も知ってるだろ? 日本にも現地法人、あるからな」
「う、うん……」
「オレは1月からあそこの研究室で、化学工学の研究員をやってる。主に素材系だな」
……と言われても、木葉にはさっぱり見当もつかない。
木葉は学生の由弦の姿しか知らない。
しかし、今は……。
なんだか一気に大人になってしまったようで、少し戸惑う。
「家はここから車で15分くらいだ。近すぎず遠すぎず、って距離だな」
由弦は言い、交差点でハンドルを切った。
日本と違い右車線なので、助手席にいると不思議な感じがする。