蜜色トライアングル ~Winter Blue
夜。
今日の報酬を懐に入れて雑居アパートに戻ると、母が出迎えた。
『おかえり、冬青……』
長い黒髪に白皙の頬。
美しい貌を持つ母は、冬青が差し出した紙幣の束を涙を滲ませて受け取った。
母のお腹には子がいる。
冬青の弟だ。
母は台湾の名家の出身だったが、道ならぬ恋に身を焼き、その身を落とした。
一言でいうと、不倫だった。
本妻に存在を知られた母は冬青を連れて香港に逃げた。
しかしその時、既に母の腹には幼い命が宿っていた。
『ごめん……ごめんね、冬青……』
身重の母の代わりに冬青が『仕事』に出るようになったのは、この半年のことだ。
類まれな美貌を持つ少年は、すぐにそういった嗜好を持つ者達の餌食となった。
いや、餌食となったのはどちらの方なのか……。
『大丈夫だよ、お母さん』
その美しい瞳を歪め、冬青は微笑う。
恋に身を焼き、身を落とした母。
恋とは、こうまで身を滅ぼすものなのだろうか?
――――であれば一生、自分には恋など必要ない。
冬青は幼心に思った。