金糸雀(カナリア) ー the Mule in a cage -
「それは……」
事情を知るジャムスはかける言葉を失った。
多感な少女にとって、友人と称されている(ジャムスの価値観からすればとても友達とは思えないが)貴族の小娘たちが発した言葉は耐えがたいものだったに違いない。
マリアが、普通の貴族の姫たちと異なる感覚を持っているのには、理由があった。
マリアの母、つまり、エミーユの母の妹は、れっきとした子爵の令嬢、つまり貴族である。
だが、伯爵を名乗る彼女の父親は、平民の、それも商家の出であった。
彼は、友人と共同で出資した船が、異国から貴重な品物を持ち帰ったおかげで大金を手にし、その大金を元手に様々な商売を始め、手がけたほとんどの事業を成功させた。稀に見る「商売の天才」であった。
そんな彼が簡単に手に入れられず、それゆえに喉から手が出るほど欲しかったもの、それは「高貴な血」つまり貴族階級の地位であった。
役人は便宜を図るかわりに平然と賄賂を要求し、国王が城に堂々と愛人を住まわせるこのご時世に、金で買えないものなど何もなかった。
没落した貴族の家系、広大な屋敷、国王から拝領した領地……全てひっくるめて、彼にとっては「破格の値段で」手に入れると、貴族の美しい女性をも妻に娶り、あれよあれよという間に伯爵となったのである。
伯爵になってからも、彼は変わらず商才を発揮し続けた。彼はますます富んでいき、おかげで、妻と一人娘のマリアは、何不自由ない暮らしを送ることができている。
だが一方で貴族たちに目をやれば、領地からの税収に頼りきりで、収支に疎く、浪費ばかりしているため、父祖が築き上げた財産が底をつきかけている者も多かった。中には、裕福な商人から借金をして、結果商人に頭が上がらず、非常に強引な手段で家を乗っ取られる者もいた。
マリアの父は、貧乏な貴族たちからすると、「胡散臭く、金に任せて身分を買ったいやしい男」にしか見えなかったのだ。
父祖の代から貴族の家庭と違い、マリアは幼い頃から両親の、特に父親の愛情をいっぱいに受けて育った。
父との会話を通して、世の中の仕組みや富の流れなど、ボンヤリではあっても感じていたのである。
「……わかりました」
ジャムスは頷いた。
事情を知るジャムスはかける言葉を失った。
多感な少女にとって、友人と称されている(ジャムスの価値観からすればとても友達とは思えないが)貴族の小娘たちが発した言葉は耐えがたいものだったに違いない。
マリアが、普通の貴族の姫たちと異なる感覚を持っているのには、理由があった。
マリアの母、つまり、エミーユの母の妹は、れっきとした子爵の令嬢、つまり貴族である。
だが、伯爵を名乗る彼女の父親は、平民の、それも商家の出であった。
彼は、友人と共同で出資した船が、異国から貴重な品物を持ち帰ったおかげで大金を手にし、その大金を元手に様々な商売を始め、手がけたほとんどの事業を成功させた。稀に見る「商売の天才」であった。
そんな彼が簡単に手に入れられず、それゆえに喉から手が出るほど欲しかったもの、それは「高貴な血」つまり貴族階級の地位であった。
役人は便宜を図るかわりに平然と賄賂を要求し、国王が城に堂々と愛人を住まわせるこのご時世に、金で買えないものなど何もなかった。
没落した貴族の家系、広大な屋敷、国王から拝領した領地……全てひっくるめて、彼にとっては「破格の値段で」手に入れると、貴族の美しい女性をも妻に娶り、あれよあれよという間に伯爵となったのである。
伯爵になってからも、彼は変わらず商才を発揮し続けた。彼はますます富んでいき、おかげで、妻と一人娘のマリアは、何不自由ない暮らしを送ることができている。
だが一方で貴族たちに目をやれば、領地からの税収に頼りきりで、収支に疎く、浪費ばかりしているため、父祖が築き上げた財産が底をつきかけている者も多かった。中には、裕福な商人から借金をして、結果商人に頭が上がらず、非常に強引な手段で家を乗っ取られる者もいた。
マリアの父は、貧乏な貴族たちからすると、「胡散臭く、金に任せて身分を買ったいやしい男」にしか見えなかったのだ。
父祖の代から貴族の家庭と違い、マリアは幼い頃から両親の、特に父親の愛情をいっぱいに受けて育った。
父との会話を通して、世の中の仕組みや富の流れなど、ボンヤリではあっても感じていたのである。
「……わかりました」
ジャムスは頷いた。