エトセトラエトセトラ
灯台守は、いつもひとりであった。
古ぼけた椅子に座り、何百回読んだかも分からない本を読む。
本の背表紙は剥がれかけ、表紙に記された題名は月日の流れと共に褪せて読めなくなった。
ぱらり、と灯台守が本のページを捲る。ウミネコが遠くで鳴いた。
頬を海風が掠め、灯台守の白髪を揺らした。
灯台守はいつもひとりであった。
灯台守に不満などなかった。
空は毎日違う雲を流し、灯台守を楽しませた。
海は毎日違う波を流し、灯台守を楽しませた。
毎日色の変わる空と海を、灯台守は愛していた。
灯台守に不満などなかった。
優しい海風がウミネコの声を運んでくるたびに、心の中は澄んだ気持ちでいっぱいになった。
灯台守は、幸せであった。
ぱらり、本の捲られる音がする。
ウミネコは変わらず空を泳ぎ、トビウオは海を飛んだ。
灯台守はゆっくりと瞼を下ろした。
ぼろぼろの本が、ぱらぱらと風に捲られてゆく。
灯台守は、いつもひとりであった。
灯台守は、幸せであった。
灯台守の午後
(ゆっくりと、ゆっくりと)
end