エトセトラエトセトラ



彼女からこんな時間に電話が来るのは初めてのことだった。
夜中の、三時。草木も眠る丑三つ時というやつだ。
僕は当然ベッドの中で深い眠りに就いていたし、二回の電話で彼女が諦めていたら目覚めなかっただろうと思う。続けざまにかかってきた三回目の彼女からの電話で、ようやく僕の耳に着信音が届いたのだ。
待ち受け画面に表示されている名前が彼女のものだと分かってはいたが、未だ微睡みの中にいる脳みその奥までは入り切っていなかった。むにゃむにゃと目を擦りつつ、僕は携帯電話を耳に当てた。


「はい……、なに? どうしたの……」

寝てました、と言わんばかりの僕のくぐもった声に被せるようにして、彼女の謝罪の言葉が聞こえた。


「ん……大丈夫。なに、怖い夢でも見たの」

寝惚け眼を擦りながら彼女に問うと、電話の向こうからすすり泣くような音が聞こえた。


「泣いてるの。うん、……うん、もう大丈夫だから。うん」

彼女の泣き声が大きくなる。宥めつつ夢の内容を問えば、それはなんでも、


「――絶望?」

うん、と彼女が頼りない声で返事をした。

細かい内容までは覚えていないと言う。ただ、『絶望』という"感覚"だけが体を支配したことしか。


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