エトセトラエトセトラ
彼女の寝息が微かに聞こえる。僕は、電話越しの彼女の夢の中に響くような囁き声で呟いた。
「……結婚、しようか」
彼女の寝息が静かに耳に届く。穏やかな寝息に微笑んで電話を切ろうとした時、声が聞こえた。
「ほんとはね、」
寝言のような、淡い声。
「きみが、死んでしまう夢を、見たの」
僕は携帯電話を耳に押し付けた。
「足が、震えて。立っていられなかった。きみを失ったという事実に耐え切れなかった。心の奥に真っ黒い闇が襲い掛かってきて、」
――絶望、したの。
微かにすすり泣く声が聞こえてきた。夢を思い出してしまったのだろう。
「大丈夫だよ。僕はここに居る。どこにも行かない。死んだりしない」
すすり泣く声が数秒続いてから、ねえ、と彼女が言った。
「次に怖い夢を見た時は、きみに隣に居てほしい」
鈴虫の声だろうか。やけに涼しい心地がする。
「わかった。そしたら一緒に、夜空でも眺めようか」
うん。電話の向こうに居る彼女の微笑む顔が、瞼の裏に見えた気がした。
絶望と共に眠る
(睡眠不足も、きみの為なら)
end