エトセトラエトセトラ




「私、君のためなら死ねるよ」

悪びれもせず言葉を繰り返す。

そんな彼女にどうにも堪らなくなって、僕はソファの上で泣き崩れた。ぽたぽたと膝の上に大粒の涙が落ちては、ジーンズの生地に吸い込まれていった。

彼女は僕に擦り寄り、優しく肩を抱く。


「ごめん、悪かったよ」

頭の上で彼女の声がする。悪かった、死なないから。顔を上げて。

いつもこうなんだ。彼女はずるい。

苦しくて涙が止まらない。どうしてこんなにままならない。どうしてこんなに僕は弱い。

嗚咽を零して泣きじゃくる僕の顔を、彼女が無理矢理上げさせて荒々しくキスをした。さっき飲んだワインの味。
そうして僕の頬を辿る涙を舐めて掬い、小さな体で抱きしめる。

部屋は変わらず恐ろしく静かで、触れ合った箇所から彼女の心音が鮮明に聴こえた。

どくん、どくん。

熱くて、強くて、愛しくて、怖かった。


彼女の心音が、僕の体に直接響く。

首筋をなぞる唇は命を体現するかのように熱い。

命の水が流れる音。それがどうしてこんなにも怖いのか。

わからなかった。ただ悲しくて、涙が出た。

拭えない不安をかき消すように、僕は彼女の体を抱きしめ返した。


肩口に埋まる彼女の満足そうな笑みに、僕はきっと、一生、気が付かない。










心音

  (それでもやっぱり、好きなんだ)




end
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