‐彼と彼女の恋物語‐
「あれ、起きちゃった?ただいま」
「………おかえりなさい」
突然、胸元から心地よい温もりがいなくなったかと思ったら代わりにいたのはその主人。
うっすら開けた目に写ったのはアップの綺麗顔で反射的に頭を引いていた。
「……なに、してるんですか」
「コトが寝てるから、キスしてあげようと思って」
「(反射神経ありがとう)もう起きたんで…」
「うん、よく寝てたねミーヤだけだったからコトが帰ったんじゃないかと思ったよ」
「………すいません、今何時ですか」
「まだ1時だよ」
「今からご飯作ります」
やってしまった、職務放棄としか思えない。雇い主の家で寝過ごすなんてはじめてで若干のパニックに陥る。
なのに、彼は目を細めて楽しそうに彼女の髪を掬うと優しく撫でる。
「初めて見れたよ、コトの寝顔」
「……………」
「可愛いね、ホント」
「ご飯、作ります」
「出前でも頼む?食べにいく?」
「作ります」
べつにいいのに。言葉とは裏腹にとても嬉しそうに笑う彼はさっと立ち上がると名残惜しげに前髪にキスを落とす。
「(え……)」
「着替えてくるね」