‐彼と彼女の恋物語‐



スニーカーを脱ぎ捨てて真新しい匂いがするフローリングにカバンを落とす。引きずるような足取りでベッドに倒れ込んだ。



ギシッ―…軋む音がやけに響く部屋だと思った。



「(もう少し考えて決めればよかった)」



後悔先に立たずとはまさにこのこと、しかしすぐに消化不良のようなもやもや感が襲い思考を放棄した。



「(終わらせなきゃ…)」



落ち着いた思考にため息を溢してすぐ、思い身体を起こしてフローリングに落としたそれから出た機械を手に取った。



以前のとは違う機種の携帯にメモに入れておいた番号を液晶に打ち込んで一瞬だけ迷い、発信画面を押す。



発信音が鳴るのを聞くと頭のなかで言うことを復唱しつつも、あのひとのことだからと勘繰られた後のことも想定する。



「(大丈夫、大丈夫)」



深呼吸をするために息を吸い込んだ瞬間、発信を切ったことを知らせる機械音に混じって声がした。



《………はい、熊谷です》



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