‐彼と彼女の恋物語‐
九物語。
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彼女が彼の前から姿を消してから既に半年が経とうとしていた。
小説家の彼が今何をして誰と関わってどんな顔をしているのかなんて全くわからない。あの日から彼女はあらゆる情報を遮断し、自らも避けていたから。
冬の朝日がアスファルトを照らすなか、履き慣れたスニーカーで歩く姿は以前と変わらないように見えて、随分変わっている。
彼女が向かった先は数か月前から働きはじめたバイト先の喫茶店。こじんまりとした優しい雰囲気が漂う店内には挽きたての豆を並べる店主。
オーナー兼、店長をしているショートカットの女性に彼女は声をかける。
「優子さん、おはようございます」
開店前の店内にゆったりと反響し、優子さんと呼ばれた女性が顔を上げる。
「小音ちゃん…!おはよ、今日もよろしくね」
「はい」
切り揃えられた髪をふわふわと揺らしながら綺麗な微笑みをみせる優子さんに頭を下げてキッチンの奥にある扉を開けた。
スタッフルームと書かれたプレートが揺れ、小さな振動を立てる。
部屋の中にはロッカーが数個とスタッフが疲れを癒すソファー、それに男女の着替えを仕切るカーテンがある。
“小音ちゃん”と、優子さんらしい裾広がりな大きな字で書かれた紙が貼り付けてあるロッカーをあけると中には制服である黒のエプロンと白いシャツが入ってる。