‐彼と彼女の恋物語‐



ビル街の奥に隠れ家のような雰囲気を漂わせるこの店は、近くの会社から訪れる人間が多く彼らにとっては良い息抜き場である。



「おはようございます、そちらへどうぞ」



空いてる席へと客を案内しては控えめな声音の注文を聞き取ってキッチンで静かに作っていく。



朝は決まった少数の客ばかりなのでとくに従業員が必要なことはなく、彼女が来るまでは優子さんがひとりで経営していた。


デニッシュにサラダと果物をつけたものと優子さんが淹れた美味しいコーヒーを一緒にテーブルへと運ぶ。


優子さんに昔なにがあったかは知らないが、コーヒー豆からお湯の温度、淹れ方、カップの形や大きさなどにこだわる姿はただのコーヒー好きには思えない。



彼女もそのコーヒーが好きだったりする。



「あ、小音ちゃん休憩していいよ」



朝のピークが終わったブランチの間は客足も疎らで、貴重な休憩時間である。彼女は適当にキッチンを片付けると小さく声をかけて扉に向かった。



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