‐彼と彼女の恋物語‐
恋物語。
ずっと忘れよう忘れようとしてはより記憶に鼓膜にこびりついて離れなかった綺麗なそれ。
それでも慣れない努力で思い出さないようにとしていたこの半年間が、崩れていくような気がする。
「……(なんでだろう、泣きそう)」
時間を無駄にしていたわけではないと思うが、どうして簡単にこんなことが出来てしまうのか甚だ不可解だ。
目頭が熱くなっていくのが何だか嫌。眉を潜めて波のように攻めくるものを耐えるとさっさと優子さんのもとに戻ろうと思い引っ掛けた指先を引く。
と、ノブを引っ張ればドアは開くのは自然のことなのに。それなのになぜか店内へと足を進めることができないのは―――後ろから回った腕のせい。
やだ。
やだ。
「っ…(やだっ……)」
懐かしい香りと温もりと、少しの強引さを漂わせて。
それなのに優しくて優しくて、いつも彼女のことばかりを優先してくれる大人でだけど子供な、彼が。
「―――……コト」
酷く大事そうに名前を呼ぶ。
半年間の月日を、一瞬にして飛び越えされてしまった気がした。