‐彼と彼女の恋物語‐
「っ、……」
途端、息を飲む音が聞こえてきて眉を寄せる仕草をしたんだと理解する。
くるりと抜け出したくない腕のなかから無理矢理すり抜けて目を合わせないようにして扉までの一歩、距離をあけた。
「ご用件がないなら失礼します。もし何かあれば店長に伝えておきま―――…」
―――ッダン!
一瞬、なにが起きたのか理解できなかった。ただわかるのは危険な雰囲気になっているということと離れたはずの距離が縮んでいるということ。
彼女は背中をドアにくっつけていてその顔の横には腕がついている。そのおかげで彼の顔とは超至近距離、睨むような怒気が孕まれた瞳と視線が交わってしまう。
「コト、他人面すんなよ」
「―――…っ…」
「―――嫌いでもいいから、無視は……しないで」
ひしひしと伝わってくる怒りとそれを上まる不安を抱える彼はとてつもなく苦しそうに見える。
「返事…して」
「―――――」
「お願い」
「―――――」
「ごめん、困るよね」
「―――――」
「ねぇ、コト…」
「―――――」
「話聞いて」
「―――勝手なこと言わないで」