‐彼と彼女の恋物語‐
半年ぶりに淹れた彼の為のコーヒーに何だか複雑な気分を抱きつつ口の端をあげて笑うムカつく笑顔を晒す男の前に置く。
「ありがと」
「……(タバスコいれとけばよかった)」
目も合わせずに頭を少しだけ下げた彼女はあからさまに彼から一番遠いキッチンのシンク前へと早々に逃げた。
その様子を黙ってみている優子さんはなぜかとてつもなく楽しそうに見える、悪趣味らしい。
暫くして彼がコーヒーを飲み終わった。やっと帰るのかと安堵のため息を吐き出す彼女。が、しかし往生際のわるいイケメンは…。
「セットお願いします」
なんて意地の悪い笑顔を浮かべながらそんなことをいい放った。しかも長く居座るつもりをアピールするためにノートパソコンまで取り出して。
「(なんでこんなことに…)」
会わない、会えない。とシリアスに考えていたはずなのに自分勝手な彼はそれをぶち壊して自らのペースに無理矢理乗り上げさせてくる。
おかげで緊張感すらもなくただこれからどうすれば彼を追い出せるかなんて馬鹿げたことしか考えられない。
じっと睨みをきかせる彼女は数分前とはまったく違う、人間らしい顔をしていた。