‐彼と彼女の恋物語‐



数時後。仕事終わりのOLやサラリーマンが一日の疲れを癒すために店内を埋めていく。


それでも窮屈さを感じないのは店の立地や空気感だろう。


ちらっと、視線の端に彼の姿を捉えれば既に常連のような空気を醸し出していて最早何の違和感も感じられなくなっていた。



「(適応力高いな…)」



眼鏡をかけてキーをパチパチと叩く姿は誰が見ても格好いい。流石は美形。


じっと見すぎていたのか噂の美形がふとこちらに顔を向けた。と、思ったら綺麗な唇を緩く動かしている。所謂口パクである。



「か・わ・い・い」

「………っ…(営業妨害!)」



不意討ちにちょっと苛ついて睨みをきかせて思い切り顔をそらしてみた。笑ってるのを空気で感じ更に腹が立つがこうなったら無視するしかないことをよく知っている。



「小音ちゃん、これお願い」



明らかに彼を意識している彼女に優子さんが笑いを耐えるようにして喋りかける。



「(優子さんまで……)」



相変わらず上手い彼のコントロールに小さくため息を溢す。



「(閉店までいるのかな…)」



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