‐彼と彼女の恋物語‐



「こっち見て」



押されるようにして入ったそこに冷静で優しい声音が広がっていくのを鼓膜で感じる。


そっと伺うように視線を上げれば大人な笑みをみせてくれる優子さんが震える手をそっと包み込んでくれる。



「優子、さん」



自分が思ってる以上に声が出ずに小さく震えるだけの音に変わっていくことに、如何に動揺しているのかを思い知らされる。


それでも優子さんじっと彼女を見つめて射抜くような真っ直ぐなそれを更に力強く主張すると。



「逃げないで」



言葉を発した。



こくん、息を飲み込んだ。



逃げないでと言われてすぐに理解できたのは彼女が何かしらから逃げてきた証拠。


それと同時に頼りなくふらふらしている自分に対して真剣にぶつかってきてくれる優しさに何故か喉元がきゅっと締まる。


涙がまた流れていく。



それは咳を切ったように留まることを知らずぼろぼろと幾度も幾度も繰り返し頬を伝っていく。



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