‐彼と彼女の恋物語‐
モンブランにフォークを突き刺して豪快に口に入れた熊谷さんはそれをコーヒーで流し込むと再び口を開く。
「小音ちゃんがいなくなって仕事も私生活もまともに手がつかなくなって、最初の3ヶ月は本当に地獄だったね」
「……ちゃんと仕事はしたよ」
「ほとんど期限過ぎてね」
「…うっさいな、しょうがないだろコトがいなきゃ生きてる意味もわかんないし」
「なんだそれ、さらっと俺までどきどきすること言ってんじゃねーよ」
え、きも。と、最後に付け足した彼に熊谷さんは一瞬、眉を寄せたが小さくため息を吐くと立ち上がる。
「小音ちゃん帰ってきたし、もう大丈夫だろ」
「当たり前」
「遅れてるのは明後日まで、あとの締め切り来週だから」
「わかった」
「ん、じゃあ帰る」
あっさり、帰り支度をする熊谷さんは残された大量のケーキを全て復帰祝いなんていって置いていく。
「あ、私も帰ります!敬さんがもろに帰れオーラ出してるんで!」
コートを羽織る熊谷さんを追いかけるようにして突然立ち上がる山下あずさは、来たとき同様騒がしい物音をたてながら熊谷さんを追う。
ガンガンッと、何かにぶつかるような音がすると。
「お邪魔しました!また来ます!」
綺麗な声が響いた。