‐彼と彼女の恋物語‐
番外編・愛物語
風邪物語。
それはある日の早朝のこと。薄暗い部屋で枕に顔を埋めるようにして寝ていた彼の鼓膜に突然、つんざくような騒音が届く。
「(………うるさ…)」
枕元にあるそれに嫌々ながらおぼろげな視界のなか手を伸ばす。そして、着信元すら確認せずに画面に触れた。
けたたましい音は途絶え、再び枕に頭を沈めようとしたそのとき。
まだ手元に残るそれが小さく振動した。
「……(メール?)」
睡眠時間がほしいはずの身体はその振動によって目が覚める。そしてふと、未だ震えるそれを見る。
――――A.M 7:39
画面の隅についでの如く表示される文字に一気に頭が、脳が、眼が、冴えていく。もうこんな時間…なのに。
「え、コトいなくね?」
人間は突然のことに動揺すると、何かを通り越して冷静になってしまうらしい。彼はまさしくその状況にいる。
「……あ、メール」
そういえばと手元のものを操作してその内容を見る。一瞬、静寂が空気を支配して直ぐ、彼は慌ただしく寝室を後にした。
―――『すいません、風邪を引きました。 休みます。』