‐彼と彼女の恋物語‐
「家、連れてくから。ここじゃ安心して寝かせられない」
指先でそっと頬を撫でれば彼女は気持ち良さそうに瞳を閉じる。冷たい指先が熱冷ましになるのだろう。
こてん、と頭を預けてくる彼女はとても可愛らしく、危なげな雰囲気さえする。
「気分は大丈夫?」
「…………平気です」
「そう……じゃあ車乗せるから、つかまってね」
こくり。素直に頷いてみせた彼女を再び抱え直してそのまま靴に足を入れ、外につながる薄いドアを開く。
どうしようか、と数秒悩んだが結局開けたのは助手席のドア。優しくそこに寝かせると席を倒してそっと髪を撫でる。
ごく自然な仕草で熱を確かめてコンビニに寄らなくてはいけないと考える。彼自身、風邪などめったにひかないから用意がないのだ。
「少し時間かかるから」
「…すいま」
「謝んないでいいから、寝な」
「………はい」
若干強めに言われて瞼を閉じた彼女を確認し、ドアをゆっくりしめると再び部屋に戻りベッドの上にあった彼女の鞄を掴むとさっさと鍵を閉めその場を後にした。
運転席に腰をおろせば隣で小さく丸まり気分の悪さを象徴するように眉間に皺を寄せた彼女がいる。
「(ホントに…熱出しても可愛いってなんなの)」
彼からみたら今の彼女は弱りきった天使である。そのくらい溺愛しているのだ。