‐彼と彼女の恋物語‐
お酒物語。
トントン、トントン、と家庭的な音がするキッチンで包丁を握る彼女。と、べったりくっついて離れない背後霊がひとり。
「ねぇ、コト、お鍋のあとはおじやにしようよ」
「そうですね」
背後霊こと彼はてきぱきと動き回る彼女の後ろにぴったり身体をくっ付け、長く男らしい腕を細い腰に回している。
「(可愛いなー)今度さ、山下と買いものでも行ってきなよ」
「……買いものですか」
「そ、予定聞いとくからさ」
「そうですか」
心底興味無い彼女は話を聞き流しては適当に終わらせるという至難の技を駆使しているようだ。
「(聞いてねぇーな…)」
羨ましい程の長身を折り、細い首筋に顔を寄せる彼は眉を寄せるも香る夕食の匂いに目を細める。
「あー…、匂い嗅いだら腹へってきた」
「もうすぐです、テーブルに運んでもらえますか?」
十分に煮立ったそれの蓋を開けて確認した彼女に笑みを見せた彼は小さな手から鍋つかみをかっさらうとさっさとリビングに運んでいった。
「ありがとうございます」
「コトが作ってくれてるんだから、このくらいしなくちゃね」
とりあえず、早く食べよう。そう笑った彼に促されるように器と箸を持った彼女。
が、しかし。
―――――ピンポーン…
二人だけになるはずだった食事は、乱入者によって阻まれるのだ。