‐彼と彼女の恋物語‐
グラスにあけられたピンク色のそれは感情変化の薄い彼女の僅かな好奇心を誘う。
そっと、伺うように睫毛をあげると見つめる彼と目が合う。アルコールによって引き出された色気が酷く似合っている。
「大丈夫だから、美味しいよ」
最後の押しにグラスを傾けると炭酸が喉へと伝わり、彼女が好きなアセロラの味がじんわり広がった。
「どう、だめだった?」
飲め飲めと勧めたくせに何も言わない彼女を心配する彼は長身を折って顔色を伺う。
「……おいしい」
しかし帰ってきたのは期待通りの返事で密かに安堵する。
それを皮切りに、気づいたときには度数は低いものの結構な量を飲まされていた。
鍋はおじやも終わり、全く酔ってない彼がてきぱきと片付けていて、熊谷さんと山下あずさはつまみを片手にこちらもまた素面のような顔色で話している。
「…敬、さん……やります…」
食器を片付けていた彼の元にきたのはついさっきまで二人に絡まれていたはずの彼女。
「ん、いいよ。作ってくれたし今日は大変だったでしょ」
座ってて。と頭を撫でられ立ちすくむ彼女は所在なさげでその茶色の瞳はじわりと潤んでいた。
そしてそれは突然だった。
「―――……やだ」
小さな、吐息まじりに呟かれた言葉に彼が振り返ったとき。
「コト?」
瞳を潤ませ、下唇を噛むという最強的に可愛い彼女が彼の服の裾を掴んでいた。