‐彼と彼女の恋物語‐
聖夜物語。
12月24日午後3時過ぎ。
一歩外へ出れば煌めくイルミネーションや、どこか騒がしい雰囲気の音楽が流れている日。
クリスマスイブ。
地球上ならばどこもかしこも浮わついた日になろうその日に、クリスマスなんて知りませんとばかりにごく自然に行事を無視しているのはそう、彼と彼女である。
1週間前に来た熊谷さんに締め切りを迫られ「缶詰にするぞ」と脅された彼は1日の大半を仕事場で過ごしている。
仕方がないことなのだが生憎なことに優子さんの喫茶店でのバイトはクリスマスだからという理由で休まされ、家事も午前中に済ませてしまった。そのため彼女はもの凄く、暇なのだ。
もうどのくらい時間が経過したのか。ひたすらぼーっと、雪も降らない外の世界をガラス越しに眺めている。
ずいぶん前に淹れたコーヒーは冷めきっていてカップから伝わるそれで指先が冷えていることに気づいた。
そこでふと、壁に掛けられた時計を数秒見つめて確認。彼女はキッチンに立つと買ってきておいた彼の好物、シュークリームを取り出した。
「(甘いもの、食べないと)」
白い花がプリントされた小皿にそれをのせて一人分のコーヒーと一緒にトレイに乗せて彼の部屋の扉をノックする。
「いーよ、入っておいで」
仕事場として使用されてる部屋の窓際に付けられた大きな机の前、キャスター付のイスにを回して手招きをする彼。
「お疲れ様です」
「わ、シュークリームだ。ありがとね」