‐彼と彼女の恋物語‐
自分を見上げる小さな存在。髪に隠れた額にキスを落として指先で頬に触れると彼女は泣きそうな顔をしていた。
「指輪、遅くなってごめんね。オーダーメイドって時間かかるらしくて」
「…………」
「驚いた?サイズは大丈夫だよね」
「…………」
「コトの指は細いからさ」
「…………」
ぽろり。溜まった涙が目尻から流れ落ちそれを拭うように指先が瞼を撫でる。
促されるまま睫毛を下ろし、彼の胸へと身体をあずけた。温かくて、強い、大切なひとの胸はさらに涙を誘った。
「敬、さん……敬さん」
「うん」
「……私っ…何も用意してなくて」
「これは結婚指輪だから、お返しなんていらないの」
「でも……でもっ…」
「ご飯作ってくれたでしょ、それで十分だよ」
「…………本当に…」
「コトは律儀だね」
抱き寄せながら彼女の左の薬指を撫でて悩むようにんー、と唸り声をあげた彼は瞬時に睫毛をあげる。
「じゃあさ、コトをちょうだい」
「―――……」
「覚えてたんでしょ」
「……はい」
「最近、触れる度にびくびくしてたもんね」
「…っ…(バレてた)」
くすくすと綺麗な笑みで見下す彼は少し腰を折ると耳元に唇を寄せた。
「風呂入ってくるから、心の準備よろしくね」
後頭部に手を添えられて彼の胸に抱き寄せられる。余裕そうな表情とは裏腹に、心音は密かに速度を速めていた。