‐彼と彼女の恋物語‐
黒地のスウェットを履き、肩にタオルを掛ながらリビングに現れた美形はただでさえ強烈な色気を上半身裸という方法でただ漏れさせていた。
「お風呂どーぞ、小音さん」
彼の声には似つかわしくない呼び名に思わず身体が反応する。ソファーに隠れるように座っていた彼女はゆっくり視線を合わせた。
「………服、来てください」
「暑いからいいよ、早く入んな」
「…………」
「髪はちゃんと乾かして、それと―――下着も上下つけといてね」
「なっ……」
「どうせ外すけど、見てみたいし」
からかうように近づいてきた彼は一口水を含むとやけに色気立つ仕草で口元を拭う。と思ったら眉を寄せ、真剣な顔つきを見せた。
「怖いとか…嫌だとか思うなら言って、止めるから。だから、そんなに緊張しなくていい。いつも見たいに風呂入って寝室来るだけでいいから」
伸びてきた右手は彼女の頭にぽすんと落ちて言い様のない安心感を与えてくれる。
胸に刺さって侵食していた不安や恐怖が少しだけだけど、消えていった気がした。
大事なのは、愛されたいか。そうじゃないか。
そんなのもちろん。
「………(愛したい)」
愛を伝えたい。ただそれだけだ。
「お風呂、行ってきます」
「あんまり長居すんなよ」
「気をつけます」
「―――ベッドで待ってる」