‐彼と彼女の恋物語‐
カチャ―――。
緊張しているせいか無意味に静かに開けてしまったことにひっそりと後悔しているとベッドに腰掛けている彼と目が合ってしまった。
「…………」
「……早くおいで」
「………はい」
パタパタと小走りで彼の側に寄ればそのまま抱き締められた。立ったままの彼女はいつもとは違う立ち位置に少し困惑。
丁度お腹の位置にある彼の頭に緊張は高まる、高まる。
「……(腰ほっそ…)」
「敬さん…?なんですか…」
触ってもいいのだろうかと思いながら恐る恐る手を伸ばし彼の髪に触れると勢いよく身体を倒された。
「わっ……」
それでも優しい彼は頭を打たないようにと柔らかいベッドなのに頭を支えながらゆっくり下ろしてくれる。
「緊張してるね、コト」
「…………」
「ちゃんと服も着たんだね、いい子」
からかうようにそう言ったかれはご褒美と称した口づけを目尻にそっとしてくれた。
彼女は強ばる自身の身体に気付いてはいるが何も出来なくて、ただ彼の行動を見つめることしか出来ない。
体重をかけないように股がる彼は微笑みながらも真面目なトーンで言葉を発した。彼女はじっと目をそらさずに一言一句飲み込こもうと耳を傾けた。
「……電気を消してね、コトを裸にして、触るんだよ。これから」
「…………」
「物凄く痛い思いをするかもしれない、泣くくらい」
「…………」
「余裕なくしたら、めちゃくちゃにしちゃうかもしれない」
「…………」
「コトが泣いてるのに、抱き締めることしか出来ない」
「…………」
「キスして吐息も全部、“俺のにしたい”って思うよ」
「…………」
「それでもさ」
「…………」
「それでも、コトをくれる?」
彼の口から初めて聞いた聞き慣れない名詞によって改めて男と女だということを突き付けられたような気がした。
こくり、不安を飲み込むようにして彼女は首を縦に動かした。
「敬さんのものに、して欲しい」