‐彼と彼女の恋物語‐
黒猫が刺繍されたクリーム色のエプロン。初めて仕事に来たときに渡されたものだ。
それを身につけて冷蔵庫のなかを適当に物色する。
「何が食べたいんですか、熊谷さん」
ソファーにミーヤを抱いたまま座っている熊谷さんは背もたれ越しに顔を向けた。考える素振りを見せながら。
「んー…フレンチか和食」
「………(どっちだよ)」
冷蔵庫を前にして最大の難問に挑む彼女。魚はあるし、でもフレンチって。朝だからパンが食べたいとか…。
終わらない自問自答を繰り返して約数十秒。
「和食、サラダとフルーツもつけて」
頭上から未だ眠気を孕んだ暖かみのある声が降ってきた。
「……分かりました、おはようございます」
「おはよ」
Tシャツにスウェットでも美形な先生こと彼は返事を確認するとソファーを陣取る熊谷さんを見据える。
「……コトにちょっかい出すなよ」
「出してねぇー。ただ朝食をリクエストしてただけ」
「コト、熊谷さんがいるときは無視してね。危ないから」
「何が危ない?!」
「うるさいよ、黙って帰れよ」
「否、お前の仕事で来てるんだよ。帰れって……」