‐彼と彼女の恋物語‐
どう考えても彼女の行為は嫉妬とやきもち。また新たな彼女の一面に嬉しくなる。
若干、拗ねているようにみえる彼女はもう何も喋る気はなさそうだが彼がそれを許すはずなんかなく。
「ね、コト。やきもち焼いたの?可愛いね」
溢れんばかりの愛しさを指先に込めるように色素の薄い髪を撫でていく。気がついたら先ほどまでのシリアスな雰囲気なんて消え去っている。
悪戯にくるくると指先に細く繊細な髪を巻き付け弄ぶ仕草に再び視線を上げると目尻を下げた瞳とぶつかる。
「心配しないで。十分、コトしか愛せないよ」
甘い、甘い。ひたすら愛だけの言葉に一瞬で、全ての不安と要らぬ思案がまるでなかったみたいに。
「確かに昔愛したひとはいるけど、それは昔の話だよ」
「…………」
「今もこれからも愛しているのはコトだけ」
「…………」
「好きだよ、ずっとね」
胸の奥深くに依然としてあった暗く思い感情をひとつ残らず取り除いて掬いあげてくれるとことん真っ直ぐな思いに、泣きそうになる。
擦り寄るように彼の胸に頬を当て鼓動を直に感じる。
「(……ここにいる。ひとりじゃ、ない)」
甘えるような仕草には慣れてはいないせいでぎこちなく身体は固いがそれでも思いをくれた彼に伝えたい。
「敬さん………好き」
少しだけ上を向いて首を伸ばして触れるだけの、キス。