‐彼と彼女の恋物語‐

喫茶物語。




―――夕方5時。



相変わらずひっそりと、人目につかないような場所にある喫茶店は今日も常連客で席が埋まる。


そしてカウンターに座りノートパソコンを叩く小説家もまた、常連客のうちの一人である。


その彼が見つめる先は明るい画面、ではなく。黒いエプロンを身に付け髪をひとつに纏め上げているひとりの従業員である。


「小音ちゃん、3番テーブル空いたからお願い」

「わかりました」



指示を受け対面式のキッチンから出てきた彼女はてきぱきと片付けていく。



優しい眼差しで小さな背中を見つめる彼。しかしその綺麗な顔はすぐに険しくなり、眉間に皺が寄る。



それは彼女の姿を追う視線が自分だけじゃないということに対する明らかな苛立ちの象徴。



手早く片付けてカウンター越しに戻ってきた彼女につい、厳しい瞳を向けてしまう。



しかし、分かっているのかいないのか。彼女は大して気にした様子もなく様々な視線に無視を貫き通しているため、当然彼の気持ちも伝わらない。



だがその代わりと言っては難だが、彼の気持ちを理解してくれるひとはいる。笑顔を浮かべながら楽しそうにしている優子さんである。



優子さんは彼の前まで来るとコーヒーを継ぎ足しつつ、さり気無く声をかける。



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