‐彼と彼女の恋物語‐
「―――……ふーん、そうだったんだ」
腹立つな、普通に。帰ったら絶対に説教だ。ついでに風呂に連れ込んで仕置きも同時にしてやる。
素知らぬ顔で作業をする彼女の横顔を見つめて脳内で家に帰ってからの説教を考えているとふいに彼女と目が合った。
お互い見つめ合うだけで何かを伝えるわけでもないそれ。先に目を逸らしたのは優子さんに呼ばれた彼女。
「今日は早めに閉めるから、小音ちゃん上がっていいよ」
「……わかりました、お疲れ様でした」
「はーい、お疲れ様」
その会話を聞いた彼は開きっぱなしのパソコンを閉じると、財布から適当に一万円を出す。
それを飲み終えたカップの横に置くと彼は軽く会釈をして席を立つ。優子さんは慌てたようにそれを止める。
「敬さん、こんなにいらないですから」
「じゃあ、前払いってことにでもしておいて」
「この前もそう言って、まだまだ前払い残ってますから」
「じゃあ今度来た時にとびきり美味しいパフェください」
「……わかりました。(小音ちゃんのバイト代に入れよ)」
それじゃあ、また今度。と扉の方へと足を進めて、振り替える。
「―――今後とも“妻”をよろしくお願いします」
特にそこの大学生、とはもちろん言わず。牽制の意を込めた言葉を残して彼は店を後にした。