‐彼と彼女の恋物語‐
それからは彼の質問攻めだった。
「いつごろわかったの?」
「病院は行ったの?」
「体調は?寒くない?必要なものは?」
ソファーの上で未だに抱きしめられたままの彼女は、冷やしちゃだめだからとブランケットで包まれ膝の上に乗せられている。
「病院は、……まだ…」
以前、高熱を出した時も嫌だと言って聞かなかったので予想はしていたが、病院にまだ行ってないことに、なぜか安堵した。
それは、妊娠したかもしれない、そう思い1人で病院にいく女性の不安は計り知れない。そんな経験をさせたくなかったからかもしれない。
それともう一つ。
「じゃあ女の先生の所行こうね」
自分しか触れたことのない大事な大事な彼女を、例え医者であろうと他の男に触れさせたくなかったのだ。
「……はい」
そんな些細な嫉妬に気づきもしない彼女。妊娠したとなれば病院と付き合っていかなければいけない。今回ばかりは逃げられないと思ったのか小さく頷いた。
「大丈夫、一緒に行くから」
「…はい」
彼女の髪を指に絡めながら彼は質問をやめない。
「どうして黙ってた…?」
分かったときに言って欲しかったな。そう言われて申し訳なくなると同時に安心を覚える彼女。
「敬さんが…いなくなってしまうかもしれないと思って…怖くて」
徐々に小さくなっていく声に彼は首を傾げる。
「どうして?コトのそばを離れるわけないでしょ」
当たり前、とでも言うようなその発言に心底安心する。
家族というものにも恵まれてこなかった彼女にとって、初めての家族は彼だった。
そして、彼との子供ができた。もちろんすごく嬉しかった。しかし、それと同時に襲ったのは大きな不安。
いつか、自らの両親がそうだったように過ちを犯してしまわないか。
親というものをちゃんと知らない自分が親になることができるのか、なってもいいのか。
そして何より、彼は受け入れてくれるのだろうか。
不安が渦を巻いて、いつのまにか言い出すことすら嫌になるほど、思いつめていた。
「敬さんは、優しいから、だから…」
「同情だとでも?」
くすり、笑みとともに吐かれた声。そして付け足す。
「心外だな、そんな風に思われてたのか。こんなにコトのこと好きなのに」
「……………」
「同情だったら結婚なんてしないし、ましてや早く帰ってコトに会いたいなんて思わない。
もっとさ、愛されてるって自信もってほしいな」
「自信…?」
「そう。コトは愛されてるんだから、何にも心配しないで飛び込んでいけばいいんだよ」
ーーーー全部丸ごと受け止めるから。
人を一度信じてしまうと裏切られたとき何重にも連なって苦しみに襲われる。それを嫌というほど味わってきた彼女は無意識に、信じるということから避けていた。
もちろん、彼のことは信じている。それでも付いて回る不安はいつまで経っても拭われない。
彼女には自信がないから。
しかし、それを簡単に与えてしまうのが彼である。