‐彼と彼女の恋物語‐
ちょっと近くのスーパーに行くはずが、これまた近場で小さな命を拾ってしまった。
右手にすっぽり収まる子猫は、頭の先から尻尾の先までびしょびしょに濡れている。
とりあえずバスルームに連れて行き身体を綺麗に洗い流そうと洗面器の中に入れた。
元々人懐こく、おとなしい性格なのか楕円形のそれに入れられてもじっと彼を見つめるだけ。
その可愛さに笑みをこぼしながらシャワーを出すと子猫は初めてびくり、と身体を揺らし警戒した様子を見せた。
少し温めのシャワーを洗面器に入れると子猫はなんとか逃げようと暴れる。
仕方なく再び子猫を抱き上げ半分ほど湯がたまったそれから湯を掬い上げ小さな身体にかけた。
すると、それが気持ちよかったのか特に抵抗は見せずにされるがまま。瞳を細める仕草はリラックスしているようである。
何度かそれを繰り返しているうちに、子猫の毛の色が徐々に抜けて、真っ白になっていく。
灰色だと思っていた子猫は全身真っ白な、綺麗な子猫だった。
「へぇ…真っ白か、天使みたいだね」
全身を綺麗に洗われスッキリした子猫はタオルで拭かれてご満悦の様子だ。
自分よりも遥かに大きいタオルが動くのが楽しいらしく時折端を噛んでは邪魔をする。
ドライヤーを使おうとしたら子猫がまた音に驚いて暴れたのでしっかりタオルドライをする。
さらさらとした毛並みに水気がないのを確認して、よくやく終わった。
その途端、子猫はとたとたと小さな歩幅で家の捜索に出かけた。猫には大切な事なのだろう、解釈した彼は放っておくことにした。
その足で向かうのは寝室。すぐ帰ってくるからと起動しっぱなしだったノートパソコンで検索するのはもちろん、猫の飼い方。
しばらくいろいろ調べて、これから再び買い物に行こうと車のキーを手に取る。近所のスーパーでは用が足りなくなってしまった。
ふと、振り返ると開いたままのドアから子猫が顔を覗かせていた。そしてベッドを見ると駆け足で飛び乗る。
しかし、結構な高さがあるそれには乗れず。猫は猫でもまだまだ子供だというのがよくわかった。
何回目かの挑戦でようやくよじ登ることが出来た子猫はふかふかの感触が気に入った様子でそのスペースを闊歩する。