‐彼と彼女の恋物語‐
しばらくじっ、とその様子を見ているとふと浮かんだ原稿の案。
ちょうど行き詰まって進むに進めない状況だったのだ。小さな子猫は天使なのかもしれない、なんてファンタジーなことを考えた。
とりあえずこれで熊谷さんに文句言われることはなさそうだ。
小さな頭を撫でてもご飯に夢中。
かと思えば、いきなり顔を上げてジャンプしてきた。
「わっ、いきなり……」
思わずキャッチして後ろに尻もちをついた彼は苦笑を浮かべる。どうやらこの子とは楽しくやっていけそうだ。
「ミーヤ、今日からここが君の家だよ。好きなように歩き回っていいよ」
返事はなく、代わりに指を甘噛みされた。なんとも自由な生物である。
「今日からよろしくね」
「みゃー」
わかっているのか、いないのか。それでもまるで会話のようなそれに嬉しくなる。
これが、彼と白猫の出逢いである。
後日ーーー。
検診の為に動物病院へとミーヤを連れて行った帰り、カフェの前でアルバイト求人のチラシを眺めている女性がいた。
すらっとした脚をスキニーでつつみ、足元は履きつぶしたスニーカー。パーカーのポケットに両手を入れてる。
その後ろ姿に惹かれ、足をとめる。
すると、ゲージの中にいるミーヤが急ににガリガリと上についてる透明な扉で音を立てる。いつもはしない行動だ。
その音に反応して、くるり。振り向いた女性と目が合った。
しかし、対して興味もなさそうに視線を逸らし、すたすたと通りを歩く姿に、胸が高鳴った。
ああ、これは、絶対、好きになる。
妙な直感と自信。すぐに走って手を声をかけた。
「あの……ハウスキーパーのバイト、しませんか?」
これが、彼と彼女の出逢いである。
白猫の天使は、彼と彼女の恋のキューピッドなのかもしれない。