‐彼と彼女の恋物語‐
白猫番外。
ーーー「あの……ハウスキーパーのバイト、しませんか?」
急に後ろから手首を掴まれて恐怖のままに振り向けば無駄な色男がそんなことを言ってきた。
変出者なのだろうか、逃げた方がいい。そう脳が体に指令を出すので、無言で手を振り払って再び歩き出した。
「ちょっと待ってお姉さん、変態じゃないから」
しかし、変出者はその長い足で優雅に且つ、当たり前のように横を歩く。
「最近さ、猫を飼い始めたんだけど結構忙しくて1人ぼっちにさせちゃうんだ」
だからなんだ。内心そう思っていたが言葉には出さず彼を一瞥した。
「ついてこないでください」
「うーん、でもなぁ。お姉さんにしか頼めないんだ」
「悪徳商法ですか」
「………慈善事業と言って」
「さようなら」
「ねぇ、仕事探してるんじゃないの?」
「怪しい仕事は結構です」
ぴたり。信号が赤に変わり歩みを止めるとその言葉と共に視線を向けられる。
綺麗だと、思った。
色素の薄い茶色く澄んだ瞳が。生温い風に細められ、揺れる睫毛が。
綺麗だと、思った。
赤が、消える前に、捕まえなくては。だから声を出そうと息を吸ったその時。
「みゃー」