‐彼と彼女の恋物語‐
「(まぁ、いいや)」
きっと万の言葉をかけたところで彼は離れないだろうから、妥協して早めに諦めるという対策をとる。
器用に野菜を切り分けて火にかけて。その作業中もずっとくっつき虫、邪魔で仕方ない。
しかし、彼女は文句ひとつ言わずにまるでさも普通のように動き回る。
「敬、拗ねんな」
「拗ねてない、充電だもん」
「(だもんって…)小音ちゃんに迷惑だ」
「充電」
「はぁ…」
諦めたのか白猫にうだうだと愚痴を溢し始める熊谷さん。ちょと頭があれに見える。
良い具合に焼けた魚をグリルから取り出して。
「先生、そこのお皿取ってもらえますか?」
「ん、これ?」
「ありがとうございます」
背後にくっつく彼は巻き付いていた手を一旦離したかと思うとまたもとの場所に。
「(やばい。クセになる。離れたくない。連れていきたい…)」