‐彼と彼女の恋物語‐
心配物語。
「あーーーだめだめだめだめ、だめだよコト」
少し怒ったような、だけども目尻を下げて酷く心配そうな表情を見せる彼は、彼女の持っていた雑誌の束を奪い取る。
ーーー彼女の妊娠が分かってからというものの、彼はずっとこの調子なのである。
敬が載ってるから、という理由で毎月大量の雑誌を持ってきてくれる熊谷さん。それを楽しみにしているのは他でもない、彼女だったりする。
だがしかし、彼以外に興味がないのでささっと載ってるページだけ切り抜いてあとは読まずに…なんてことがしばしば。
たまに暇つぶしとして読んでも毎月新しく出てくるそれらは場所をとるし、一度ミーヤがその束に乗り、雪崩のように崩れて怪我をしそうになったのである。
そんなものはさっさと処分するほかないと、彼女はせっせと片付けてゴミ出しに行こうとしていた、その矢先の出来事である。
妊娠中に何かあってはいけない、と言い出した彼は家事すら心配なようで、しきりに様子を見に来てはあれはだめ、これはだめ、と邪魔をしにくるのだ。
「敬さん、一気に全部運ぶわけじゃないですから大丈夫です」
「もし途中、階段で転んだりしたら?エレベーターが止まったりしたら?」
「……非常ボタン押します」
「そうなる前に、危機を回避する」
彼が言う危機とはいったいどのラインからなのだろうか。そして、その危機のは起こるものなのだろうか。さっぱりわからない。
「いくら妊娠してるからって、運動不足はだめなんです」
「じゃあヨガでもする?胎児に良いってこの間テレビで」
「普通に家事をさせてください」
「(かわいい…)」
話を聞いていない夫は小柄な彼女を抱きしめるとそのまま抱き上げてしまう。
少しだけ目立ってきた腹部に負担をかけないように、さりげなく空間を作ってくれるのだからこの男は厄介だ。
ふわり、ソファに降ろされブランケットで包まれる。目の前にしゃがんだ彼はそのまま彼女の腰に腕を回す。