‐彼と彼女の恋物語‐
「何も家事するなとは言ってないけど、重いものは危ないからだめ」
「キャベツは重くないですよ」
「この間は…ごめん、キャベツはやりすぎだなって思った」
恥ずかしそうに笑った彼はもう一度ごめんね、と謝ると前に立って頭を撫でる。
「でもね、すごく心配なんだよね。コトは何でも1人でやろうとするから」
「………すいません」
人に頼るコトに慣れてない彼女は何事もまずひとりでやる。悲しいことに要領の良い彼女は大概のことを1人で出来てしまうからまた問題だ。
「ミーヤがこの間じゃれて怪我しそうになったからでしょ?」
「はい…」
「じゃあ、一緒に行こって言ってよ」
「一緒に…?」
「そ、事後報告禁止です」
重い雑誌を何往復してひとりで運ぶより、彼と一緒に1度で運んでしまった方が格段に良い。
「でも、お仕事は?」
「何のために外での仕事を断ったと思う?家にいるためだよ」
「お疲れ様です?」
「違う違う、今の可愛かったけど。奥さんと一緒にいたいからだよ」
ふわふわ微笑む彼は、何回恋に落とすのだろうか。幾度となく落ちた彼女は立ち上がって抱きつく。
「え、え、コト?かわいい、何コレ」
「…明日、一緒に病院来てください」
「もちろん、て言うか行くつもりだったけど(かわいいかわいいかわいい)」
「ざ、雑誌、捨てに行くの手伝ってくれませんか?」
「うん、行く。誘ってくれてありがとう」
笑う彼につられて、彼女も思わず笑いじゃあ行こうか、ついでに買い物もしよっか。なんて話が進んで手を繋ぐ。
「この子が生まれるまで2人でいっぱい一緒にいようね」
なんでもないことのように、そう言った彼にまた恋に落ちる。
「コトは鞄持ってね」
「え、雑誌は」
「はい行くよー。ミーヤお留守番お願いね」
「敬さん!」