‐彼と彼女の恋物語‐
熊谷+あずさ
あいつ何なの。顔は綺麗だしスタイルは良いし髪も綺麗だしいい匂いもするし。何なの。
待ち合わせしたカフェ。少し遅れてしまうと連絡した数分後に到着し、人を探せば妙に目立つその姿。
さすが人気モデル。シックなコートを綺麗に着こなし、持っているティーカップですらセットに見える。
だがしかし、それにそぐわないのは目の前に堂々と座ってる男。
「山下あずさちゃんでしょ?ほんっとかわいいね。俺ちょくちょく読モやってるんだけど知らない?」
「すいません。勉強不足なものでして」
「まじかー。まぁいいや、これからよろしく」
「面白いひとですね」
「あずさちゃんさー俺のこと事務所に紹介してくんない?本格的にやろっかなーって思っててさ」
「すいません私芸能界に知り合いいなくて」
ナンパだろう。そして、あわよくば売名出来れば良いという浅い考えの自称読モのその男。
苦笑いを繰り返すあずさにズカズカと付け入る。芸能界に少し掠っただけで芸能人面する一般人が一番厄介で、うざい。
マフラーをとってカツカツとフローリングに足音を鳴らせば彼女がこちらを向く。
そして、安心したようにいつもの馬鹿っぽい微笑みを浮かべるのだ。
「山下、何してんの?」
「わからないんです。急に座って喋り始めちゃって」
「そりゃ災難だな。店予約してっけど早めに行くか」
「そうですね、目立ちますし」
まだ残る液体をぐっと飲み干した男前な彼女はクラッチバッグを持つと席を立つ。また何かを言おうとする男に俺はそっと声をかける。
「お前なんかがスキャンダル起こせるほど安い女じゃねぇーんだよ」
隣に立った彼女に自分のマフラーを巻きつけると嬉しそうに腕をからめる。
おいおい、これだからスキャンダルだらけなんだよお前は。まぁ可愛いけど。
「外で待ち合わせはもう無しな」
「えっ、なな何でですか!」
「お前見た目いいから面倒なの」
「ええええやだやだ整形するから!」
「黙れ俺以外にナンパされてんなよ声もかけられるなスキャンダルモデル」
「わ、わ、はい!はい!もう二度とナンパされないことを誓います!選手宣誓!」
「はいはい黙れ馬鹿」
こいつ何なの。
馬鹿って、かわいい。