‐彼と彼女の恋物語‐
「先生…?」
首筋にあたる柔らかいものに不安を覚えてつい、振り返る。
と、淋しそうに眉尻を下げる彼と目が合ってしまう。未だに腕のなかなので距離が近い。
「先生、どうしたんですか。もう少し待ってください。朝ごはん」
的はずれなその言葉に彼はそうだね、と返すと再び白い首に顔を埋める。
「あの、セン…セ…」
「…………」
咄嗟に伸びた彼女の腕は彼の胸元を力なく握るだけ。抵抗しようにも、肌を這う唇が優しすぎてできない。
唇はゆっくり移動してうなじまでいくと微かな痛みを彼女に与える。
初めてのことに困惑を見せる彼女はただ必死に耐える。そのうなじに付けられた印にも気づかずに。
仕上げと言わんばかりに赤い舌がその印を舐めれば華奢な身体が不安定に震える。
「…センセ………」
その小さな音に満足気に頷く彼は耳許に直接声を注いだ。
「顔洗ってくるから、熊谷さんと浮気すんなよ」
「…朝食いらないんですか」
「ごめんごめん」