‐彼と彼女の恋物語‐
踵を返した長身の彼は廊下をその長い脚で進んでいく。その後ろ姿に深いため息を吐きながら彼女は再び調理を再開させた。
―――――――………
―――…
「今日はすぐ帰って良いから、ね?暗くなっても送ってあげられないから」
「分かりました」
「何なら今一緒に下まで行こうか」
「ミーヤのご飯は…」
「敬、いい加減にしろ」
「明るいうちに帰れよ?どうせならここに泊まっててもいいから」
「あの…」
「敬~遅刻すっからまじでお願いいいい!」
ライターを弄る素振りは相当苛ついているんだろうことを想像させる。
にも関わらずその熊谷さんを苛つかせてる張本人は華奢な彼女にすがり付いて離れようとしない。
時刻は10時30分と、彼の今日の仕事場まで間に合うか合わないかという瀬戸際。
「誰が来ても開けないでね、寂しかったらすぐ電話して駆けつけ」
「させねーよ!!!」
いい加減痺れを切らしたらしい熊谷さんは何故か泣きそうな顔した彼を引きずるようにして連れ去った。
「また明日ね、コト」
「………はい」