‐彼と彼女の恋物語‐
相も変わらず皺は寄ったまま。そう問いかけた彼女はキッチンに入り角にある折り畳みの椅子にバッグを置く。
対面式のダイニングキッチンは彼の眠そうな顔を覗き見るのに最適。
「んー……わかんない、まぶしかった」
きっと撮影の時に浴びた照明のことだろう。言葉と同時に目を細める仕草をする。
「やれそうですか」
軽めの朝食を作ろうとトーストと卵と牛乳を並べて。あ、砂糖も。
「―――…さあね、コトがいないからつまらなかったけど」
少し高い位置に入れておいた新しいボウルを出しす。フレンチトーストでいいかな。なんて呟きながら卵を持ったところに。
「――――…それより」
いつ隣にきたのか、つい数秒前までキッチンを挟んで会話をしていたはずなのに。
手のひらは彼の手に包まれている。落としたと思ったそれは彼によって新しいボウルのなかに収まっている。
「ねぇ…コト」
酷く暖かい手。眠気を存分に孕ませた声。少し伏せた睫毛を透かしたような瞳。
「(好きなものばかり)」
「コト…、コトにお願い」
「……何ですか」
「一緒に寝よ」