‐彼と彼女の恋物語‐
ただひたすらに、恋しいだとか、置いてかないでだとか。未練がましい言葉の羅列に吐き気がした。
そこに私は存在していなかった。一言だって書かれていなかった。
退院の時、身元引き受け人として現れた父はそれを見て嘲笑していた。
なぜこんなひとが幸せになって、ただひたすらに思い続けた母は死ぬはめになったのか。今ではもう興味もない問いだ。
そして、父は言った。
『お前はひとりだ。これからひとりで生きていくんだ、一生な』
施設に預けられた私の鞄に押し込められた大金。
生まれて初めてのお小遣いはその札束だった。
短大を卒業するまでそのお小遣いは絶え間なく振り込まれていた。きっと父は連絡するなという意味をこめていたんだと思う。
その証拠に住所も電話番号も私は知らない。