‐彼と彼女の恋物語‐



「何もないならいいけど」

「はい。離してください」



彼の胸元に手を置いて距離をつくり離してくださいとばかりにアピールする。が、抵抗虚しく彼女の背中には手が回る。


抱き締められて、彼女の肩口にはかれの吐息がかかる。


間近にみえる男らしい首筋から逃れるように鎖骨に額を当てる。



「ねぇ、コト」

「……はい」

「コトがいないとコーヒーが飲めないんだ」

「―――――」

「離れないでね、絶対に」

「、…――――」



守れない約束は、肯定しない。その行動に苦しそうに眉を寄せる彼は腕に力をいれる。


少し苦しい圧迫感に彼女の口から息が漏れる。



「コトがいないと何もできない」

「コトがいないと、駄目なんだ」

「生きていけないかもしれない」

「……せん、せ。大丈夫ですか」

「―――うん、ごめんね」



どうしても彼女は欲しい言葉をくれない。ただ“はい”と一言言ってくれれば安心できるのに。



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