‐彼と彼女の恋物語‐
暫くたってもなかなか拘束を解こうとしない彼に困惑気味な瞳が向けられる。
「先生…お仕事が嫌なんですか?」
その問いにくすり、と意地悪そうに口の端をあげる彼は既にいつもの先生にみえる。
「心配かけちゃったね、ごめん」
「………モデルのお仕事ですか」
「大丈夫だよ、そんなに気になる?キスしてくれたら疲れもなくなるかもね」
「もういいです」
それから残念と苦笑し、ちょっとパソコン見てくるね、と何の感情も読み取れない笑顔で書斎に入っていった。
よくわからない不安と焦燥感な心に巣を作っていく。
「(――先生もいつかは私を必要としなくなる――)」
人肌を覚えてしまった今、彼女にとって“ひとり”とは耐え難い現実となってしまう。それが迫り来る恐怖に、ただじっとするしかできない。