‐彼と彼女の恋物語‐
テレビは付けない、これはなんとなく。
ただ高そうなカーテンをほんの少し揺らす風の音だけが鼓膜を叩く。
彼女はこの静かな時間が嫌いじゃない。寧ろ気に入っている。
自分の作ったごく普通の料理を高級フレンチでも食べてるんじゃないかと思わせる笑みを浮かべる彼。
そんな人を目の前にして気分が悪いわけがない。
それに、二人の間に流れる空気は独特で。酷く安心するものがあった。
それがいったい“どんな感情”なのか。今の彼女には知り得ないが。
「あ、今日出るけど昼飯はよろしくね」
「何が食べたいですか?」
「うーん…ちゃ、餃子」
「チャーハンも作っときます」
「………ん、ありがと」
「いえ」
彼のなんとも言えない表情と清ましたようなクール過ぎる相対する表情。
彼は、そんな彼女の“ミエナイ表情”が嫌いじゃない。
寧ろ、“好き”だったりする。
―――くすり、優しい笑みを溢しながらも早く帰ってこようと考える彼。
―――ニンニクとニラと、チャーハンはなんの具がいいのかと考える彼女。
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