‐彼と彼女の恋物語‐
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うっすらと暗くなった部屋で塞がっていた瞼をあげる。少しの時間を要して現状を理解する。
動けないのは目の前の彼のせいだと気づく。少しだけ考えて鼻先の胸元に手を置いて距離をつくる。
そして静かな部屋で呼び掛ける。
「起きてください、先生」
「――――」
「先生ー、もう夕方ですよ(…仕事しなくちゃ)」
「――――」
「…起きてください」
「―――…んー」
何度目かの呼び掛けにようやく声をあげた彼は、返事をしたのにも関わらず更に腕の力を強めた。
そのお陰で彼女は再び彼の胸に顔を当てることになる。ゆっくり響く鼓動が伝染するように、脈が打つ。
「(…寝不足で仕事が忙しくても少し寝過ぎな気がする)」
それが自身の香りのせいだときづかない彼女は思考を巡らせて終わる。