‐彼と彼女の恋物語‐
顔あげて。とびきり優しい声でそう促せば控えめに睫毛を上向かせる彼女。
前髪が流れて下がった眉がより強調されている。
至近距離で見つめあうのは些か抵抗があるが、彼が余りにも綺麗に微笑むのでそのまま動けない。
「ごめんね、抱き心地いいから気持ちよくて寝過ぎちゃった」
ただでさえ顔がいいのにそんなことを言われて平常心でいられるわけがない。もちろん彼女も例外ではない、顔には出さないけど。
「もう夕方か、夕飯の準備しなくちゃいけないんだね」
ふんわりといった雰囲気を漂わせる彼は彼女を腕の拘束から解くと、上半身だけを起こす。
ぐっと、腕を伸ばす仕草だけでも格好いいなんてちょっと理不尽に思える。
ゆっくりと解き放たれた身体を起こして、温もりが残るベッドから足を出す彼女。
時間がわからないから少しだけ焦っている。