‐彼と彼女の恋物語‐
未だに背後霊よろしく後ろに張り付いている彼。冷たいお茶でも入れようとキッチンに歩けば一緒に付いてくる。
「ちょ、あの…流石に邪魔です」
「お茶やだ、コーヒー欲しい」
「わかりました、淹れるんでちょっと座っててください」
「……早く、早くね!」
だめ押しのように早く!と付け足す彼は渋々ソファーに身体を沈めていく。
その様子を横目に少々冷めた感情で見つめるハウスキーパー。主人の思考回路が不思議でならない。
「どうぞ」
ソファーの前にある脚の短いテーブルに入ったばかりのそれを静かに置く。
「ん、ありがと。大好き」
「冷めないうちにどうぞ」
「………(スルーかよ)」
暫くは意味ありげな視線だけの攻防戦をする。が、睨まれて数秒彼が折れて不発に終わる。
綺麗な長い指をカップに巻き付けて少し屈む様はとてつもなく心臓に悪い。
見た目がこれだからたちが悪い。中身はあれでも。
だから、少し間をおいて吐き出されたそれに彼女は眉をひそめる。
「……大丈夫ですか、先生」