‐彼と彼女の恋物語‐
咄嗟に出てきたその声に彼がふわり、微笑みをみせてくれる。
「ありがと、心配してくれてるんだ」
「………倒れても運べませんから」
「そう?引きずってきそうだよ、コトなら全然いいけど」
「―――(Mなのかな…)」
「(可ぁ愛い)」
そっと、マグカップから離された片手が彼女に近づく。
手の甲が当たるのは彼女の頬。まるで温度を確かめるように、存在を確かめるように触れる。
「ねぇ、コト」
「はい」
「今日の夜ご飯は和食がいいな」
「わかりました」
「あ、でも揚げ物はなるべくしないで。火傷なんかしちゃだめだから」
「……はい」
「それまで少しだけ休むね」
「……おやすみなさい」
「ありがと」
離れていく手に、温度に、存在に。彼女は咄嗟に手を触れた。
重ねるようにして大きな手を一生懸命に包み込む。色々な、言葉にできない感情を織り混ぜて。
「―――――」
その行動に僅かばかりの驚きを見せた彼。だけどすぐに少年のような笑顔を浮かべる。
「(ああ、もう)…好きだなぁ」